神 戸 新 聞
7.次代へ(掲載日:2002/01/08)
作品を学び地域に誇り
 
 「仲間を心から信じること。信頼しないと何も始まらないんだな、と思いました」

 「すごく漫画が好きなんだなあ。『好きなことは最後まで続けた方がいいよ』と言いたかったのかな」

 手塚治虫の作品に触れた子どもたちが、素直な思いをつづる。

 平和の尊さ、あらゆる生命の共生、人間に対する深い洞察…。新世紀を迎えた二〇〇一年の秋、手塚が描き続けた壮大な世界の意義をあらためて学ぼうという試みが、宝塚市の小学校などで始まった。

 歌劇や昆虫採集、戦争体験などを通じて、手塚が漫画家としての基礎を培った地・宝塚。地元の市立売布小学校(筒塩智佳子校長)では、五年生約八十人が本年度二学期の総合学習で、「手塚治虫」をテーマに選んだ。

 担任の岡村眞一教諭(29)は「宝塚をこよなく愛した彼の作品を通じて、自分たちが住む地域への愛着をはぐくんでほしかった」と思いを語る。

 児童らの多くは、「鉄腕アトム」など一部の作品しか知らなかった。しかし、自分たちが暮らす地域のエピソードや手塚自身の経験が漫画の中に息づいている―。そう実感することで、日に日に学習意欲が高まっていった。

 好きな作品を選び、そこから感じたメッセージと、印象的な場面をまとめる。記念館も積極的に活用した。

それぞれに手塚の思いを受け止めた子どもたち。偉大な漫画家を生んだ地域への誇りも芽生えた=宝塚市立売布小学校
 「リボンの騎士」を思わせる王宮風の玄関ホール、「火の鳥」に登場する生命発生装置をイメージしたカプセル型展示ケース、「アトム」のロボット工場を再現したアニメ工房…。児童らは館内で「宇宙」や「未来」を体感した。

 「生きていることの尊さ」「人を助けることの大切さ」…。やがて、それぞれが手塚のメッセージを受け止め、その意味を感じ取った。

 「手塚漫画の『学習性』が証明された」と、筒塩校長は確信を込めて言う。

 研究や教育の場で長く軽視されてきた「漫画」だが、手塚作品はその偏見をも打ち破りつつある。昨年、手塚の誕生日にあたる十一月三日、日本マンガ学会の第一回総会が京都精華大で開かれた。甲子園大(宝塚市)では同十月、手塚や歌劇を題材とした「宝塚学」が正式科目として開講した。

 講義を担当する廣田昌希教授(67)は「歌劇などの影響を受け、世界的な発想に満ちた作品群は、学問の題材としても非常に興味深い」と、その学術的意義を分析。講義では手塚の漫画界での功績や宝塚とのかかわりを説いた。

 受講生の一人はこう感想を記した。「今でも多世代の支持を得ている事実に感嘆。もう二度と彼のような漫画家は現れないかもしれない」

 時代を超え、形を変えて、手塚の思いは脈々と受け継がれている。(文中敬称略)

=おわり=

 この連載は、記事を大原篤也、宮本万里子、金海隆至、田中真治、国森康弘、写真を佐藤隆英が担当しました。

 
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