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(掲載日:2002/12/25)
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認めてもらいたかった私 | |||
「とりあえずやらせてやれよ」 それが父の口ぐせでした。わがままで、家庭内で騒動のタネだった私は「しょうがない娘」。やりたいことや欲しい物があると、反対する母から逃れ、父の所に駆け込みました。手塚家の三人の子どもの中でも、一番父に甘えて育ったんじゃないでしょうか。 仕事部屋に入っちゃいけないのに、相談ごとがあると「ちょっといい?」とお構いなし。そのたびに父はペンを置いて、じっくり話を聞いてくれた。だれよりも自分のことを認めてもらいたい、と思う存在でした。 一方で、「手塚の娘」という現実に反発もあった。字を覚えるより前に漫画を描いて遊ぶような子どもだったのに、「さすが親子だね」と喜ぶ周りの反応を素直に受け取れず、音楽の道へ。「私は私なんだ」という思いが強かったんです。 以来ずっと、父はコンプレックスとあこがれの対象でした。背中を見続ける私と違い、自分の作る映画に出てもらったり、父と対等に付き合う兄の真(まこと)をうらやましく思った時期もありましたし…。 社会に出て、ようやく大人同士として向き合えると思った矢先に父が亡くなりました。そこで初めて親ではなく、世の中に影響を与えた作家としての手塚治虫がどんな人だったのか知りたくなって、作品を読み返したんです。 「鉄腕アトム」は単に強くて勇気のあるヒーローじゃなく、身勝手な人間にほんろうされ、苦悩する少年。父の前で大人になれず、葛(かつ)藤(とう)を続けた私は、そんな姿に共感しました。 「ジャングル大帝」に登場するレオの息子・ルネは「人間の世界を見たい」と親に反抗し、ジャングルを出る。結局、傷ついて帰って来るんですが、父親はもうこの世にいない…。レオの形をした大きな入道雲に向かってルネが旅立つラストシーンは、私自身の生き方の象徴ですね。 父が何を思い、考えていたか直接聞きたかったけど、かなわぬ夢となりました。でも父が感じたことや経験のすべては、作品に詰まっています。もっと多くの人に手塚治虫の世界を知ってほしい。そのきっかけを作ることが、今の私にできる親孝行です。 この連載は、記事を松本創、小西博美、宮本万里子、田中真治、写真を佐藤隆英が担当しました。
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