03・4・7 鉄腕アトム誕生 ソニー土井常務に聞く
(掲載日:2003/03/19)
 手塚治虫が創作したヒーロー「鉄腕アトム」の誕生日「2003年4月7日」に向け、世界最大級のロボット博覧会「ROBODEX(ロボデックス)2003」が、四月三―六日に横浜市で開かれる。人間との共生をテーマに、世界一といわれる日本のロボット技術が結集する。本紙夕刊社会面で連載した「手塚治虫のメッセージ」特別編として、博覧会の発起人で、ペット型ロボット「AIBO」の生みの親でもあるソニー「インテリジェント・ダイナミクス研究所」所長の土井利忠上席常務(61)に話を聞いた。(記事・松本創)
共生目指す技術進化/「ロボットの知性」どこまで追求
◇ロボデックス

 ―「ROBODEX」の開催経緯、狙いは

 「一九九九年六月に発売した『AIBO』の大ヒットで、『パーソナルロボット』、つまり人間のそばにいて、さまざまな仕事をしたり、楽しませてくれたりするロボットが大きな産業になる可能性を感じた。そこで各社が技術を競い合う場として博覧会を企画、二〇〇〇年十一月に第一回を開いたところ、全国から五万人もの人が集まった。一般の人のロボットへの関心がとても高いことが再発見できた」

 「第二回は六万五千人を集め、じゃあ第三回はアトムの誕生に合わせてやろうと。世の中は大変な不況だが、ロボットだけは話題沸騰、次々と企業の参入もある。二十一世紀最初の新しい産業になると確信している」

 ―なぜロボットがそれほど人間をひきつけるのでしょう

 「携帯電話やコンピューターなどと違い、自律的に動くロボットは擬人化・擬動物化したり、感情移入しやすい存在。ROBODEXは『ロボットと人間の共存・共生』を掲げているが、例えばAIBOとお年寄りが一緒に生活するというのは『共生』という言葉がぴったりくる」

 ―人や動物に似せたデザインが、単なる道具を越えた親近感を抱かせるという面もあります

 「ただ、そこは非常に難しい。われわれの間で『不気味の谷』という言葉がある。ロボットを人や動物に似せれば似せるほど親密度は増すが、ある一線を越えると、途端に人間は不気味に感じる。だからAIBOや、去年発表した『SDR―4X』(人間型ロボット)にも、わざと動物や人間とは違うデザインを取り入れている」

 「また、機能面においても、コンピューターと人間や動物の知性はまったく違うため、人間や動物を追いかける、近づけるという発想では必ず行き詰まる。ロボットなりの知性を追求し、進化させることが必要になる」

◇アトムが実現する?

 ―「ロボットなりの知性」とは、例えばチェスの世界チャンピオンに勝ったチェス・ロボットのように、単一目的に限って情報処理や計算の能力を限りなく高めていくということですか

 「チェスのように動きを伴わず、一定の持ち時間内にどの手がいいか探すことにおいては、いまや圧倒的にコンピューターが強い。囲碁や将棋になるとまだ人間の方が強いが、原理的にはコンピューターの方が強くなることが分かってきた」

 「人工知能の研究者たちが現在取り組んでいるのは、ロボットのチームがサッカーをやる『ロボカップ』という試み。実際の空間で運動をさせるのだからチェスよりはるかに複雑だが、九七年から研究が始まって七年目、そろそろロボットが人間のチームに勝てる水準まで来ているのではないか。もちろん、まだ車輪で走るロボットだし、(対戦相手の)人間にけがをさせる危険があるなど課題は多いが」

 「最近では、環境や育て方によってはロボットが自ら学習し、複数の競技にも対応できる可能性も見えてきている。ただし、それはロボットが意思を持つということとは全然違う」

 ―最近のロボットの発達で、「アトムは実現するか」とよく言われるが、それは難しいと

 「ロボットが心を持つことは原理的に不可能。ロボットが発達して人間に取って代わるという人がいるが、人間や動物を知れば知るほどそんなことはあり得ないと分かる。どちらが優れている優れていない、ではなく、比較すること自体が間違い。飛行機と鳥を比べてどっちが優れているかといっても無意味でしょう。特性のまったく異なる知性が両方存在する。ロボットと人間の共生とはそういうことだ」

 ―ただ、アトムが日本のロボット研究に与えた影響は大きい

 「もちろんそう。ぼくは漫画の連載当時、夢中になって読んだ世代。子供心に受けた影響は強烈な刷り込みになっている。いまロボット開発に携わっているのもその一つかもしれない。手塚さんのメッセージはとてつもなく広く、深い。鉄腕アトムに関しては『科学と人間がテーマ』などと言われるが、そんな言葉だけではとても片付かない。手塚さんはロボットを通して、人間そのものを描きたかったんだとぼくは解釈している」

◇パートナーとして

 ―ロボット開発は今後どこへ向かうのでしょうか

 「パーソナルロボットは介護や警備、3K(仕事をする)ロボットまで幅広いが、私はエンターテインメント・ロボットが最も伸びると思う。生活に必要不可欠ではないけれども、気が付けば身近にいる人生のパートナーのような存在。例えば今のインターネットの役割をロボットが担ってもいい。『これちょっと調べてよ』とか『メール送っといて』と言えばやってくれる。そして、時にジョークを言ったり、対話をしたり…。(使う人間に関する)情報や記憶は蓄積されていくので、それを保存しておけば、新しいロボットに変わっても引き継いでいける。そういう所まで含めてエンターテインメントだとわれわれは考えている」

 「ロボット産業はようやく立ち上げが済んだ段階。製品化されている物はまだ少ないし、値段も高い。でもまあ火がつけばあっという間でしょう。世帯普及率10%は十年以内、いや三年以内に達成するかもしれません」

 どい・としただ 1942年、西宮市出身。ソニー執行役員上席常務。情報通信研究所長時代の93年からAIBOの開発に携わり、現在もロボット開発を指揮する。手塚治虫の作品「奇子(あやこ)」の登場人物「天外伺朗」のペンネームで執筆活動も行っている。
 ROBODEX2003 最先端のパーソナルロボットが集まる世界最大級の博覧会。4月3―6日、横浜市のみなとみらい・パシフィコ横浜で開かれる。企業13社、大学・専門学校10校などが72種のロボットを出展した昨年の第2回を上回り、7万人の来場を見込んでいる。
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