(掲載日:2002/02/28)
2.科学は万能かロボットが心を持つ?

 ロボット法第一条「ロボットは人間を幸せにするために生まれたものである」。第十三条「人を傷付けたり、殺したりできない」

 「鉄腕アトム」で架空の法律を紹介した後、手塚治虫が自らマンガに登場し、つぶやく。

 「『ロボット』を『科学文明』におきかえてみたとき、科学文明は果たして人間を幸せにできたでしょうか…」

 手塚が生涯こだわり続けた命題。それは、例えばこんな物語として描かれる。

 東京にアトムの形をした風船爆弾がまかれた。実は、知事選で「ロボット追放」を公約する男の仕業なのだが、人々の怒りはアトムに向かう。男はかつてロボットに職を奪われた経験を訴え、当選してしまう―。

 男の悪巧みは暴かれるが、アトムはその後もさまざまなトラブルに巻き込まれる。「人間とロボットの共生」なんて本当にできるのだろうか。

◇       ◇       ◇

 「結局、使う人間次第ですよね。道具だから。テレビや車、パソコンと同じです」

 「ソニーコンピュータサイエンス研究所」の北野宏明(40)は言う。ペットロボット「AIBO」の開発にも携わった人工知能の権威だ。

 世界一のロボット大国日本。介護や医療、防災に娯楽と研究分野も幅広い。数年前にはホンダやソニーが二足歩行ロボットを開発、「アトムは実現するか」と騒がれた。

 だが結論から言えば、アトムのように自ら考え、善悪まで判断する「自律型ヒューマノイド(人間型)」は遠い夢だ。

 「人間にロボットの反応や状態を知らせるため、困った顔をしてみせるなどの『疑似感情』は表現できても、本物の感情を持たせるのは当分無理でしょう」と北野。

 つまり、「感情とは」「心とは」が解明されない限り、アトムは生まれようもない。操作する人間次第で良くも悪くもなる「鉄人28号」型とは、そこが大きく異なる。

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 アトムはたった一度だけ、人間に反旗を翻す。迫害に耐えかね、ロボットの独立国建設に協力するのだ。だが、最後の最後で人間の盾となり、別のロボットに壊される。

 自らを犠牲にして人間を守る「心」を、手塚はアトムに持たせた。

 それは、科学への賛歌ではない。「ロボットもいつか心を持つ」という無邪気な夢でもない。しばしば人間を置き忘れて暴走する科学技術への警告ではなかったか。      (敬称略)

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