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(掲載日:2002/03/06)
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西暦三四〇四年。環境破壊が進んだ結果、地球に危機が訪れていた。草木は死に絶え、人間は地下に築いた五つの大都市で、完全にオートメーション化された生活を送る。服装や食べ物、恋愛の行方さえも、巨大なコンピューターの支配下にあった。 手塚治虫が、地球を見守る不死鳥・火の鳥を通して、太古から未来にいたる壮大な時間と空間を描いた大作「火の鳥」。三十年以上前に発表された「未来編」は、荒廃した地球の描写で幕を開ける。やがて、ある都市のコンピューターが「絶対命令」を下す。 「待ってください。戦争はただごとじゃない」 「私の計算では戦争以外にありません」 二つの都市間で戦争が始まり、核爆弾が瞬時に地球上の生命すべてを消滅させた。 自然を失う代償はどれほど大きいのか―。その問いに手塚は答えた。人間が自然破壊を続ける行く末にあるのは、「地球の死」だと。 手塚が作品に込めた自然への思い。それは、まだ緑が広がる宝塚の御殿山ですごした少年期の体験に基づく。昆虫採集に夢中になり、ざわめく風を肌で感じた日々…。 御殿山で住宅開発が始まったのは、東京に拠点を移して約二十年後だった。「ふるさとの変遷」に直面しなかった分、体験は深く心に刻まれた。晩年のエッセーで手塚は語る。「豊かな自然の記憶が、都市生活者となったぼくを潤してくれる」 熱帯林などで植物形態の研究を続けている兵庫県立人と自然の博物館の高橋晃・主任研究員(48)は「数十年という人間のスパンに加え、何億年という壮大な自然のサイクルを認識する、冷静な科学者の視点を持っていた」と、手塚の自然観を分析する。 「自然の大きな流れを変える先には、人間への『しっぺ返し』が必ずある。手塚はそれを踏まえ、矛盾を抱えながらもなお、次の世代が結果を変えてくれると信じ、希望を託したのではないか」 冒頭の地球の死から三十億年。生物が滅びて、また現れて進化して、栄えて滅びた。その繰り返しを見つめ続けてきた火の鳥がつぶやく。 「でも信じたい。今度の人類こそきっと間違いに気が付いて、生命を正しく使ってくれるようになるだろう…」 |
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