(掲載日:2002/08/16)
4.未来へ 平和の重み 次代と共有
 熱射砲やミサイルを備えた“ロケット人”「マグマ大使」。「あばれるとおそろしい兵器になるね!」と驚く少年に、マグマは言う。「いままでの兵器ならそうだが…私たちは違う。地球を守るためにしか使えないんだ」  最先端の科学技術を平和の実現だけに利用できたら―。マグマ大使や十万馬力の「鉄腕アトム」などのヒーローは、手塚治虫のそんな思いから生まれた。

 手塚が少年期を過ごした宝塚は戦後、米軍駐留地になった。ある時、手塚は言葉の通じない米兵にいきなり殴られ、カルチャーショックを受ける。地球人と宇宙人、人間とロボット…。さまざまなあつれきが脳裏をよぎり、それが、科学と人間の「不調和」を描いた鉄腕アトムなどの着想につながったという。

 地元の宝塚市立売布小学校(柳沢勇校長)では四月から、六年生約八十人が「平和と人権」をテーマに総合学習に取り組んでいる。児童らは前年度、「手塚作品」を学んだ経験を持つ。

 昨年から担任を務める岸裕子教諭は、児童らと同様、戦争を知らない世代だ。「何を教えることができるだろうか」。戸惑いながら指導に臨んだが、やがて不安は確かな手ごたえに変わった。

 「きっと戦争のない世の中にする!」。児童の一人は、命をかけて人間を守ろうとするアトムの姿を見て、こう思った。壊れても壊れても「悪」に屈しないマグマから、「本当の正義」とは何かを考えた児童もいた。

 そして、学習後に書いた手塚への「手紙」で、ある児童はこうつづった。「いま(他の国で)戦争が起きています。戦争をしている人に、なぜそんなことをするのかききたい。(中略)そんな人たちに、手塚さんが伝えたかったことを言いたいです」

◇       ◇       ◇

 児童らは五月、修学旅行で広島市を訪れた。

 「人間は賢い頭の使い方を間違っている」「私たちが広島に行くのは、日本がどんなあやまちを犯したのか忘れないようにするためだと思う」

 感想文に並ぶ言葉に、「彼らは手塚さんの作品に出会い、さまざまなメッセージを受け取ることの大切さや平和の尊さを学んだ。それが今も生きている」と岸教諭。

 九月、児童らは手塚学習の時と同じように戦争の悲惨さを絵と文で表現し、全校生に発信する。=敬称略=

(終わり)

 この連載は、松本創、大原篤也、宮本万里子、田中真治が担当しました。

手塚治虫のメッセージTOP   4  

Copyright(C) 2002 The Kobe Shimbun All Rights Reserved